Complete Rewrite — Unified Framework

ナッツアドバンテージ ≠ レンジEQ
CB / Donk / Stab のベット頻度乖離を支配する統一法則

MTT General ICM 9m200 / PTpct50 / 14 スポット × 5 深度 × 99–104 ボード / 40BB 基準
CB:7 スポット(IP 5 + OOP 2)
Donk:5 スポット(SRP 4 + 3BP 1)
Stab:2 スポット(SRP 1 + 3BP 1)
修正:SB-LJ 3BP OOP CB 逆転率 55% → 4%(再計算済)

目次

  1. 問題提起 — EQ とベット頻度はなぜずれるか
  2. 統一フレームワーク — ナッツアドバンテージと SD の正体
  3. 全スポット定量化 — ρ と逆転率ヒートマップ
  4. ドンクベット — ナッツアドバンテージの直接証明
  5. CB — レンジ幅と SD
  6. スタブ — EQ 直結と SPR 崩壊
  7. 実戦への示唆 — アクションタイプ別判断フレーム

1 問題提起 — EQ とベット頻度はなぜずれるか

次の 2 枚のボードを見てほしい。どちらも BTN-SB SRP(BTN open / SB call)でフロップを迎えたシナリオだ。 ドンクベット(SB がプリフロップアグレッサー BTN の前にベット)の頻度を観察する。

AsKh2c
SB EQ:53.9%(平均より高い)
SB Donk:5.8%(平均より大幅に低い)
→ EQ が高いのにドンク頻度は極低
7h6h5h
SB EQ:48.9%(平均より低い)
SB Donk:55.7%(平均より大幅に高い)
→ EQ が低いのにドンク頻度は超高
重要な前提:「EQ が高いとベットしやすい」という直感は正しい——ただし不完全だ。
実データでは EQ とベット頻度は正の相関がある(14スポット全てで ρ > 0、スポット間では r=0.91)。 高EQボードほどベットしやすい傾向は本当に存在する。しかしこの 2 つのボードはその傾向だけでは説明できない逆転ケースだ。 EQ は「近似として有効だが必要十分ではない」——ナッツアドバンテージという追加の次元が必要になる。

同様の限界は CB でも観察される。BTN がプリフロップ 3bet して SB をコール側に追い込んだ後、 フロップで BTN が CB を打つ頻度は「BTN の EQ」と強く連動するスポットと、ほとんど連動しないスポットがある(逆転率 1%〜26%)。 Stab でも同様の分化が起きる。この「連動の強さ」を決めるのが SD とナッツアドバンテージの構造だ。

中心命題:EQ は有効な第一近似だが、ナッツアドバンテージが EQ と逆方向を向くとき逆転が生じる。
EQ が高いほどベットしやすい傾向は確かに存在する。ただしそのボードでどちらのプレイヤーがナッツ(最強ハンド群)を多く保有するかという非対称性が EQ を上書きするとき、逆転が発生する。 EQ–Bet 逆転率は mean EQ ではなく SD(両レンジのボード適性分散)によって予測される(r=0.605)。

2 統一フレームワーク — ナッツアドバンテージと SD の正体

Range EQ(レンジエクイティ)

あるボードで bettor のレンジ全体が持つ平均エクイティ。
測定は容易 — スポット × ボードごとに単一の数値として計算できる。

ベット頻度の主要な傾向を説明する(cross-spot r=0.91、全スポット ρ>0)。 「EQ が高いほどベットしやすい」は正しい第一近似

Nut Advantage(ナッツアドバンテージ)

そのボードで 最強ハンド群(ナッツ)をどちらが多く保有するか
Range EQ とは独立した概念。EQ が低くてもナッツアドバンテージを持てる(逆もしかり)。

Range EQ と逆方向を向いたとき「逆転」が発生する。ナッツを多く持つ側は相手の re-raise を抑制しながらベットできる。

【観察された仮説】Value Tier Advantage — 第 2 層の効果
Range EQ(mean)と Nut Advantage(top 1-5%)の中間に位置する概念として、 value tier(強いが nuts ではない手、おおよそ 55–80% EQ 帯)をどちらが多く持つか がベット頻度に影響する可能性がある。
mean EQ が同程度のスポット間でも CB 頻度が大きく異なるケース(例:LJ-SB SRP 69% vs BTN-LJ 3BP 60%)がこれで説明できるかもしれない。 これは Range Morphology(Acevedo の分類)の具体的事例にあたるが、 現時点ではビン単位の equity 分布分析が必要で未実証。観察された仮説として記載する。
SD(aggEQ) の正体 — 「アグレッサーの EQ ばらつき」は何を測るか

本分析では各スポットの「EQ–Bet 逆転率の予測因子」として SD(aggEQ) を使用した。 これは アグレッサーのエクイティがボード間でどれだけ変動するか を表す標準偏差だが、 その解釈には重要な注意点がある

誤解:SD(aggEQ) はアグレッサーの「ボードカバレッジ」を測る
→ これは不正確。アグレッサーのレンジだけを見ているのではない。
正解:SD(aggEQ) は「両レンジのボード間相対強度のばらつき」を測る
アグレッサーの EQ が高いボードは「アグレッサーレンジ ≫ ディフェンダーレンジ」のボードであり、 逆もまた然り。したがって SD(aggEQ) が大きいということは、両レンジの得意ボードが乖離している(一方が Ace ボードに強く、他方がローボードに強い)ことを意味する。 両レンジが貢献する値である点を見落としてはならない。
予測因子の検証
棄却:Preflop EQ は逆転率を予測しない
プリフロップ EQ ≈ ポストフロップ EQ の平均(mean)。しかし逆転率は平均からのばらつきに依存するため、 平均値である Preflop EQ は逆転率の予測に失敗する。
採用:SD(aggEQ) は逆転率を強く予測する(r = 0.818)
CB スポット 7 × 5 深度のパネルデータで、SD(aggEQ) と逆転率の Pearson 相関は r = 0.818。 SD が大きいスポットほど、一部のボードで EQ–Bet が逆転しやすい。
なぜ SD が大きくなるのか — レンジランクギャップ

SD が大きいスポットに共通する構造:アグレッサーとディフェンダーのランク構成が乖離している。 一方が AX 豊富で他方がローカード豊富なとき、Ace ボードではアグレッサーが圧倒し、 低ランクボードではディフェンダーが圧倒する → EQ がボード間で大きく振れる。

スポット SD(aggEQ) AX Gap
(agg − def)
Low Gap
(6X/7X/8X)
逆転率 40BB
BTN-BB SRP IP CB 1.82pp +2.3pp ≈0pp 2%
LJ-BB SRP IP CB 4.72pp +19.2pp −11.1pp (7X) 14%
BTN-LJ 3BP IP CB 5.34pp +27.7pp −17.1pp (6X) 26%
SB-LJ 3BP OOP CB 6.05pp +17.2pp −9.1pp (6X) 4%
SB-LJ 3BP は SD が最大(6.05pp)にもかかわらず逆転率が 4% にとどまる。これは ρ=+0.71 と EQ-CB 相関が強いため。 SD は「逆転が起きうる素地」を示すが、レンジ構造の複雑さ(SB の connected bluff 等)が EQ-CB アライメントを維持する場合もある。 SD は逆転率の上限を示すが、実際の逆転はレンジ構造で抑制される。
Core Framework: BetFreq ≈ f(NutAdvantage) // primary driver BetFreq ≈ f(RangeEQ) // secondary, correlated but subordinate When Reversal Occurs: NutAdvantage ← Player A (many top hands) RangeEQ ← Player B (higher avg equity) → Player A bets despite lower avg EQ (reversal) SD(aggEQ) : measures relative-strength variance across boards // NOT just aggressor's board coverage // BOTH ranges contribute to the variance r(SD, reversal_rate) = 0.818 // CB panel, verified

3 全スポット定量化 — ρ と逆転率ヒートマップ

14 スポット × 5 深度の Spearman ρ と逆転率(EQ ±2pp 超 かつ Bet ∓5pp 超のボード割合)。 各セルは ρ / 逆転率% の形式で表示。

スポット [アクション] 40BB35BB30BB25BB20BB
CB — プリフロップアグレッサーのリードベット
BTN-BB SRP [IP CB] +0.56 / 2% +0.62 / 3% +0.67 / 5% +0.38 / 10% +0.41 / 14%
LJ-BB SRP [IP CB] +0.50 / 14% +0.51 / 15% +0.58 / 15% +0.48 / 17% +0.49 / 10%
BTN-SB SRP [IP CB] +0.53 / 1% +0.43 / 2% +0.51 / 2% +0.30 / 10% +0.31 / 12%
LJ-SB SRP [IP CB] +0.57 / 11% +0.52 / 15% +0.46 / 15% +0.28 / 17% +0.29 / 14%
BTN-LJ 3BP [IP CB] +0.37 / 26% +0.47 / 20% +0.46 / 17% +0.35 / 21%
LJ-BTN SRP [OOP CB] +0.82 / 4% +0.71 / 3% +0.66 / 4% +0.36 / 9% +0.65 / 2%
SB-LJ 3BP [OOP CB] +0.71 / 4% +0.74 / 3% +0.62 / 13% +0.46 / 12% +0.50 / 19%
Donk — OOP 非アグレッサーのリードベット
BB-BTN SRP [Donk] +0.53 / 0% +0.47 / 0% +0.52 / 0% +0.44 / 0% +0.54 / 0%
BB-LJ SRP [Donk] +0.57 / 0% +0.58 / 0% +0.66 / 0% +0.56 / 0% +0.62 / 0%
SB-BTN SRP [Donk] +0.67 / 2% +0.63 / 3% +0.64 / 3% +0.60 / 5% +0.67 / 10%
SB-LJ SRP [Donk] +0.62 / 10% +0.62 / 11% +0.64 / 11% +0.46 / 14% +0.58 / 8%
LJ-BTN 3BP [Donk] +0.54 / 22% +0.64 / 27% +0.60 / 23% +0.57 / 16%
Stab — IP 非アグレッサーが OOP チェックを突くベット
BTN-LJ SRP [Stab] +0.86 / 0% +0.79 / 1% +0.71 / 1% +0.11 / 12% +0.13 / 15%
LJ-SB 3BP [Stab] +0.49 / 9% +0.56 / 7% +0.51 / 12% +0.34 / 16% +0.43 / 12%
ρ 凡例: +0.80〜 強い正相関 / +0.55〜0.80 中強 / +0.40〜0.55 中 / 0〜+0.40 弱 / ≤+0.15 事実上無相関
グループ平均(40BB)

CB — 7 スポット平均

ρ = +0.578
逆転率 avg 8.3%
最高逆転: BTN-LJ 3BP 26%
最低逆転: BTN-SB SRP 1%
SRP avg 逆転: ~6% / 3BP avg: ~15%
SD(EQ) avg: 3.7pp

Donk — 5 スポット平均

ρ = +0.586
逆転率 avg 6.8%
最高逆転: LJ-BTN 3BP 22%
最低逆転: BB-BTN/BB-LJ 0%(全深度)
BB: 常に 0% / SB: 2–10%
SD(EQ) avg: 4.0pp

Stab — 2 スポット平均

ρ = +0.675
逆転率 avg 4.5%
最高 ρ: BTN-LJ SRP 0.858
25BB 崩壊: ρ 0.858 → 0.111
EQ 直結度が最も高い(40BB 基準)
SD(EQ) avg: 4.6pp(最大)
キーパターン:Stab ρ (0.675) > Donk ρ (0.586) ≈ CB ρ (0.578)
EQ に最も素直に従うのは Stab。IP 側が OOP のチェックを確認してから打つため、 「相手の弱さ」という追加情報を得た状態でベット判断できる。CB と Donk は ρ がほぼ同等だが、 逆転パターンの構造は異なる(CB は SRP/3BP の差、Donk は BB/SB の差が支配的)。

4 ドンクベット — ナッツアドバンテージの直接証明

ドンクベットは最もナッツアドバンテージの論理が明示的に現れるアクションだ。 OOP の非アグレッサー(BB/SB)は一般にレンジ EQ で不利でも、特定ボードでナッツを多く保有するとき donk する。 逆に EQ が高くてもナッツアドバンテージがなければドンクできない(相手の re-raise が通りやすいため)。

BTN open vs SB call — プリフロップレンジ構造(40BB)
BTN open — 654 コンボ(49.3% ハンド)
AX: 30.3% / KX: 22.6% / QX: 19.3%
JX: 18.7% / TX: 17.8% / 9X: 16.9%
8X: 17.4% / 7X: 10.1% / 6X: 10.3%
PP22-99: 7.3%(小さい)
SB call vs BTN — 150 コンボ(11.3% ハンド)
AX: 27.1% / KX: 22.5% / TX: 24.0%
(QX, JX は明示なし)
9X: 14.3% / 8X: 13.6% / 6X: 6.4%
PP22-99: 21.4%(大きい)
ランクギャップ表 — SB のナッツアドバンテージを決める構造

Gap = SB% − BTN%。プラスなら SB がそのランクで優位(XXy ボードでナッツアドバンテージ)。

ランク BTN open % SB call % Gap (SB − BTN) XXy Donk 頻度 解釈
AX 30.3% 27.1% −3.2pp 25% BTN ナッツ優位 → donk 低
KX 22.6% 22.5% −0.1pp 54.5% ほぼ同等だが PP 密度効果で donk 高
QX 19.3% 17.4% −1.9pp 28.4% BTN わずか優位
JX 18.7% 18.5% −0.2pp 17.9% ほぼ同等 → donk 低め
TX 17.8% 24.0% +6.3pp ★ 70.6% 唯一の有意正ギャップ → donk 最高
9X 16.9% 14.3% −2.5pp 9.2% BTN 優位
8X 17.4% 13.6% −3.8pp 14.2% BTN 優位
6X 10.3% 6.4% −3.9pp 0.6% BTN 優位 → donk ほぼ 0
TX ギャップ +6.3pp が TTy ドンク 70.6% を生む
SB は TX コンボを BTN より 6.3pp 多く保有する。TTy(TT2, TT3 等)のボードでは SB の TX が trips/two-pair に発展し、BTN の広いレンジ(Broadway 多め)を圧倒する。これがドンク頻度 70.6% という異常値の直接原因。 逆に AX/8X/6X ギャップは BTN 優位 → 対応ボードでは donk 極低。
TT2 ボード解剖 — SB がなぜ BTN に対してナッツ優位なのか
55.6%
SB EQ on TT2
92.5%
SB Donk (TT2)
39.1%
BB EQ on TT2
0.4%
BB Donk (TT2)

SB EQ は BB より高い(55.6% vs 39.1%)が、ドンク頻度の差はさらに大きい(92.5% vs 0.4%)。 なぜ SB はこれほど高頻度でドンクし、BB はドンクできないのか?答えはレンジ構造にある。

BTN の TT2 コンボ構成
TT(クアッズ): 0.9%
22(フルハウス): 0.9%
Tx(trips): 16.8%
PP33-99(オーバーペア手前): 6.4%
SB の TT2 コンボ構成
TT(クアッズ): 0%(3bet で排除)
22(フルハウス): 4.0%(4.4× BTN)
Tx(trips): 24.0%(1.4× BTN)
PP33-99(two-pair化): 17.4%(2.7× BTN)
SB のナッツ優位のメカニズム
SB の tight レンジ(11.3%)はポケットペア密度が高い(PP22-99 = 21.4% vs BTN 7.3%)。 TT2 ボードでは SB の 33+/55+ 等がツーペア(XX + TT / XX + 22)に発展する一方、 BTN の Broadway 手は one-pair 止まり。
SB のポケットペア密度 → two-pair/フルハウスのナッツアドバンテージ → 92.5% ドンク
主要ボード例 — EQ × Donk の乖離パターン
ThTd2c — donk 92.5%
SB EQ: 55.6%(平均超)
理由: TX +6.3pp + PP密度 → two-pair優位
EQ高 + ナッツ優位
AsKh2c — donk 5.8%
SB EQ: 53.9%(平均超)
理由: BTN の AK/AQ/KK がナッツ支配
EQ高 + ナッツ劣位 → reversal
6h5h4h — donk 64.3%
SB EQ: 50.6%(平均並み)
理由: SB の straights/two-pair がナッツ優位
EQ平均 + ナッツ優位
7h6h5h — donk 55.7%
SB EQ: 48.9%(平均以下
理由: SB がストレート/フラッシュドローでナッツ優位
EQ低 + ナッツ優位 → 最典型 reversal
Ts8h7c — donk 1.9%
SB EQ: 51.0%(平均並み)
理由: BTN open T8/T9/98 equally → SB のナッツ優位なし
rundown = no SB advantage
9s8h7c — donk 5.8%
SB EQ: 50.5%(平均並み)
理由: BTN も 9X/8X/7X 豊富 → SB のナッツ優位なし
rundown = BTN open広さが対称
rundown ボードで donk が低い理由
Ts8h7c や 9s8h7c のような rundown ボードでは、BTN の広いオープンレンジが T8/T9/98/87 などのコネクターを均等に含む。 SB は「このランクが特に多い」という非対称性を作れないため、ナッツアドバンテージが生まれない。 6h5h4h/7h6h5h でドンクできるのは SB が connected hands で相対的にナッツに近い手を多く持つからではなく、 BTN の wide open レンジがこれらの低ランク帯を BTN では薄く持ち、SBの tight call レンジの方が密度が高いからだ。
BB donk = 全深度 0% 逆転 — なぜ BB は逆転しないのか
BB のレンジ特性:ナッツアドバンテージの構造的欠如
BB は BTN/LJ のレイズに対してほぼすべてのハンドをディフェンドできる(wide defending range)。 これはすべてのボードタイプをほぼ均等にカバーすることを意味する。

結果:どのボードでも BB は「特別に多いナッツ」を持てない — アグレッサーも同様のボードカバレッジを持つため。 BB がドンクするのは「明確に EQ が高い時だけ」であり(平均ドンク頻度 3-5%)、 EQ が低ければ絶対にドンクしない。したがって EQ とドンク頻度が完全に連動し、逆転が 0% になる。

法則:超低頻度ベット(< 5%)は EQ-Bet 相関が高くなる傾向がある。
KKy ボード — donk 54.5% の謎(KX Gap = −0.1pp なのに高ドンク)
KX のランクギャップは −0.1pp と事実上ゼロなのに、KKy ボードでの donk は 54.5%。 これはポケットペア密度効果(PP22-99 SB=21.4% vs BTN=7.3%)による universal two-pair advantage。 KKy では SB のほぼ全ポケットペアが KK + 小ペアのツーペアに化け、BTN の Broadway hands は one-pair どまり。 ランクギャップだけでは見えない、ペア密度が作るナッツ優位の典型例。

5 CB — レンジ幅と SD

CB(プリフロップアグレッサーのリードベット)は最もシンプルに見えるが、 スポットによって ρ が +0.37〜+0.82 と大きく分散する。 この分散を決めるのは「レンジ幅」と、そこから派生する「SD(aggEQ)」だ。

① SRP — レンジ幅が SD を決める
広いレンジ(BTN open 49.3%)→ 低 SD → 低逆転率
BTN の open レンジは全ランクをカバーする(AX〜小コネクター)。Ace ボードでも低ランクボードでも BTN はまんべんなく当たるため、EQ がボード間で大きく変動しない(SD 低)。 BTN-BB SRP は SD = 1.82pp と最低水準 → 逆転率 2%。
狭いレンジ(LJ open ~22%)→ 高 SD → 高逆転率
LJ の open レンジは AX/KX 集中型。AX ギャップ +19.2pp(LJ vs BB)。 Ace/King ボードでは LJ が圧倒するが、低ランクボードでは BB の広いレンジが逆転することがある。 LJ-BB SRP SD = 4.72pp → 逆転率 14%。
② 3BP IP(BTN-LJ) — 26% 逆転の構造
BTN-LJ 3BP: 最高逆転率 26% / ρ = +0.37
BTN の 3bet レンジは AX 集中型(Ax 比率 ~52%)。LJ のコールレンジは AQ/AJ/小ペア/SC で構成。

• Ace ボード: BTN の AK/AQ がトップペア → BTN CB 高頻度
• Low ボード: LJ の SC/小ペアが当たる、BTN は Ace を「Aで行動」しにくい
• BTN の EQ は Ace ボードで高く Low ボードで低い → SD = 5.34pp(最大級)

しかし LJ もコールレンジに Broadway を持つため、Ace ボードでは EQ が安定する。 本当に EQ と CB がずれるのは Low/Connected ボードで発生 → 26% 逆転。
③ 3BP OOP(SB-LJ) — 修正後 ρ=+0.71 / 逆転率 4%
重要修正:前レポート「SB-LJ 3BP OOP CB 逆転率 55%」は計算誤りだった

旧結果(誤): ρ = −0.49 / 逆転率 55%
新結果(正): ρ = +0.71 / 逆転率 4%

原因:旧分析では lj_3bp_sb_stab(LJ のスタブデータ)を SB の OOP CB として誤用し、 LJ bettor の EQ ではなく SB の EQ を参照していた。LJ のスタブ vs SB の EQ は自然に負の相関になる (SB が強い = SB が CB する = LJ がスタブできない)ため ρ=−0.49 という誤値が出た。
SB-LJ 3BP OOP CB の正しい理解:ρ=+0.71 / 逆転率 4%
SB は 3bet レンジとして value(QQ+/AK 等)だけでなく connected bluff(SC 系)を含む複雑なレンジを持つ。 低ランクボードでは SB の connected bluffs が EQ を得るが、これが CB と整合するため EQ-CB アライメントが維持される。 SD = 6.05pp(最大)にもかかわらず逆転率 4% にとどまるのは、SB のレンジ構造がボード間の EQ 変動を CB 頻度変動と同方向に生じさせるから。
SD と逆転率のまとめ(CB スポット)
スポット レンジ特性 SD(aggEQ) ρ (40BB) 逆転率 40BB
BTN-BB SRP IP CB BTN 広 → 全ランクカバー 1.82pp +0.56 2%
BTN-SB SRP IP CB BTN 広、SB の tight range との相互作用 〜2pp +0.53 1%
LJ-BB SRP IP CB LJ 中広、AX 集中 4.72pp +0.50 14%
LJ-SB SRP IP CB LJ 中広 vs SB tight 〜4pp +0.57 11%
LJ-BTN SRP OOP CB LJ OOP、ナッツ保護の動機 〜3pp +0.82 4%
BTN-LJ 3BP IP CB BTN Ax集中 3bet 5.34pp +0.37 26%
SB-LJ 3BP OOP CB SB connected bluff + value 6.05pp +0.71 4%
CB の主原則:SD が高くても ρ が低くなるとは限らない
BTN-LJ 3BP は SD=5.34pp で ρ=0.37(低)。一方 SB-LJ 3BP は SD=6.05pp でも ρ=0.71(高)。 SD は「逆転しうる素地」を示すが、レンジの内部構造(連動する bluff があるか、EQ 変動と CB 判断が同方向か)が 実際の ρ を決める。SD と ρ は相関するが、一対一対応ではない。

6 スタブ — EQ 直結と SPR 崩壊

Stab(IP の非アグレッサーが OOP アグレッサーのチェックを突くベット)は、3 アクション中で最も EQ に直結する。 しかし 25BB というスタック深度の閾値を超えると、この強い EQ 依存が劇的に崩壊する。

① BTN-LJ SRP Stab — ρ=0.858(全スポット最高)
なぜ Stab は EQ に最も素直に従うのか?
BTN は LJ の open をコールしたレンジ(非常に広い)を持ち、フロップでは LJ が先にチェック。 この OOP チェックは「LJ が弱い/中程度の手」というシグナルを含む。 BTN はこの追加情報を得た上でスタブ判断を行う。

• レンジが広い → すべてのボードタイプをカバー → EQ がボード間で極端に変動しない
• IP の立場 → レンジ保護の動機が低い(トラップより素直なベット優位)
• OOP チェックで相手の弱さを確認 → 「EQ が高い = 相手より強い」をダイレクトに確認
→ EQ とスタブ頻度が最も直接的に連動 → ρ = 0.858 / 逆転率 0%
② 25BB でのρ崩壊 — SPR によるゲーム構造の変化
40BB
ρ=0.858 / 逆転率 0%
35BB
ρ=0.790 / 逆転率 1%
30BB
ρ=0.710 / 逆転率 1%
25BB
ρ=0.11
逆転率 12% !
20BB
ρ=0.13
逆転率 15% !
なぜ 25BB で Stab の ρ が 0.858 → 0.111 に崩壊するのか?
25BB では BTN がスタブした後に LJ がオーバーシャーブ(all-in re-raise)できる SPR 帯に入る。 BTN は「スタブして LJ にシャーブされたら call できるか?」をボードごとに計算する必要がある。

• モノトーンボード(LJ のフラッシュドローが shove できる)→ BTN は EQ があっても stab を自制
• Low/dry ボード(LJ がシャーブしにくい)→ BTN は EQ が低くても stab する(プロテクション目的)

意思決定軸が「EQ → ナッツアドバンテージ」から「テクスチャ/保護価値」に移行し、EQ との相関が事実上消滅する。
③ LJ-SB 3BP Stab — ρ=0.491 / 逆転率 9%
3BP Stab は SRP と比べて ρ が低く逆転率が高い(9%)理由
LJ-SB 3BP では SB が 3bet アグレッサー、LJ がコーラー(IP)。 SB の 3bet レンジは Ax 集中型のため、Ace ボードでは SB が当たりやすく LJ のスタブ機会が少ない。

LJ は「SB がチェックした = SB が弱い」を確認しても、SB の 3bet レンジへの恐怖(Ax 多め)が スタブを抑制する場面がある。SPR も SRP より低いため shove 閾値が高く、25BB でも崩壊幅は BTN-LJ SRP ほどではない。
3BP でのスタブは SRP ほど EQ 直結にならない。ρ=0.491 は中程度。
スポット 40BB ρ 25BB ρ ρ 変化 原因
BTN-LJ SRP Stab +0.858 +0.111 −0.747 LJ shove 圧力(最大)
LJ-SB 3BP Stab +0.491 +0.340 −0.151 SB shove 閾値が高い
BTN-BB SRP IP CB +0.56 +0.38 −0.18 BB shove 圧力(中程度)
LJ-BTN SRP OOP CB +0.82 +0.36 −0.46 BTN shove 圧力
BB-LJ SRP Donk +0.57 +0.56 −0.01 ほぼ影響なし
25BB 法則:Stab が最も深度変化を受け、Donk が最も影響を受けない
Stab(IP non-aggressor)は相手の shove 圧力に最も晒される。OOP が check→LJ shove という動線が BTN にとって最も危険。Donk(OOP non-aggressor)は自身が shove する側になるため、 スタック深度の影響を受けにくい(donk 自体がshove宣言に近い)。

7 実戦への示唆 — アクションタイプ別判断フレーム

これまでの分析を踏まえて、フロップでの 3 つのアクションタイプそれぞれに対する判断フレームワークを整理する。 「EQ を見る」だけでは不十分であり、ナッツアドバンテージの評価が常に先行する。

CB — いつプリフロップ EQ を信頼するか
  • BTN SRP: EQ で判断 OK(ρ>0.50, 逆転<5%)
  • LJ SRP: EQ は参考、SD が高い(逆転 11-14%)
  • 3BP IP: EQ より「相手のコールレンジにヒットするか」を先に見る(26%逆転)
  • 3BP OOP: EQ で判断 OK(SB-LJ は ρ=0.71, 逆転 4%)
  • 25BB 以下: shove 圧力でEQは無効化(逆転増加)
Donk — ナッツアドバンテージの確認が最優先
  • BB donk: EQ 高い時だけ → 機会は選ぶが迷いなし(逆転 0%)
  • SB donk: ランクギャップを確認。TX +6.3pp → TTy OK、AX ギャップ負 → AXy は慎重
  • PP 密度効果を意識: SB の tight レンジはペアが多い → XX ボードで two-pair 優位
  • rundown ボード(98x, T87 等): BTN が均等カバー → SB ナッツ優位なし → donk 控える
  • Low connected(654, 765): SB の SC が当たる → ナッツ優位 → donk 検討
Stab — 深度で判断基準が変わる
  • 40-30BB: EQ で判断 OK。OOP チェックを受けたら EQ 高い手でスタブ(ρ 0.71-0.86)
  • 25BB以下: EQ より「OOP が shove できるか」を先に見る(ρ 崩壊)
  • モノトーン/フラッシュボード at 25BB: OOP のshove に弱い → スタブ慎重
  • dry/paired ボード at 25BB: OOP がshoveしにくい → EQ高ければスタブ可
  • 3BP Stab: 常により慎重(3bet相手のレンジ圧力あり、ρ=0.49)
統合チートシート — アクションタイプ × 状況別判断軸
判断状況 CBDonkStab
EQ で判断できる度合い(40BB) 中(ρ≈0.578) 中(ρ≈0.586) 高(ρ≈0.675)
ナッツ優位が必要か 間接的(レンジ SD) 直接的(ドンクの前提) 間接的(OOP 弱さ確認で代替)
逆転が多いケース 3BP IP 26% 3BP Donk 22% 25BB 以下 12-15%
逆転がほぼない安全ケース BTN SRP 1-2% BB SRP 0%(全深度) SRP 40-30BB 0-1%
25BB 以下での変化 moderate ↓(−0.18 ρ) ほぼ影響なし(−0.01 ρ) 崩壊(−0.747 ρ)
SRP vs 3BP の差 大(SRP 1-14% / 3BP 4-26%) 大(SRP 0-10% / 3BP 22%) 中(SRP 0% / 3BP 9%)
フレームワーク再確認
統一法則 — EQ は有効な第一近似、ナッツアドバンテージがその限界を説明する
EQ とベット頻度は正の相関があり(全 14 スポットで ρ > 0、スポット間 r=0.91)、 「EQ が高いほどベットしやすい」という直感は近似として正しい。

しかし EQ だけでは次のケースを説明できない: EQ が高くてもナッツアドバンテージがなければ高頻度でベットできない(AsKh2c の SB donk 5.8%)。 EQ が低くてもナッツアドバンテージがあれば高頻度でベットできる(7h6h5h の SB donk 55.7%)。

EQ–Bet の逆転はこの「EQ vs ナッツアドバンテージの乖離」が顕在化した現象。 逆転率は SD(aggEQ) で予測できる(r=0.605–0.818)が、 プリフロップ EQ(= mean PostflEQ)では予測できない(r≈0)。
実戦での問い:フロップ判断の順序
1. このボードで自分のレンジのトップハンド群(ナッツ)はどちら側に多いか?
2. ナッツ優位がある場合 → ベット(Donk/CB/Stab の使い分けは役割で)
3. ナッツ優位がない・不明な場合 → Range EQ を次の判断基準に使う
4. 25BB 以下の Stab → 1〜3の前に「OOP は shove できるか?」を確認する
SD(aggEQ) の実戦的使い方
SD は事前計算が必要なためリアルタイムには使えないが、概念として使える
「このスポットの 2 つのレンジは、どのランクのボードで強く、どのランクで弱いか」が乖離しているほど、 ボードごとのベット判断は EQ だけで決まらない。乖離が大きいスポット(3BP IP CB 等)では Range EQ を信頼しすぎないこと。
Data: GTO Wizard MTTGeneral ICM 9m200 PTpct50 /
CB: 7 spots / Donk: 5 spots / Stab: 2 spots × 99–104 boards × 4–5 depths / 40BB 基準
SB-LJ 3BP OOP CB 逆転率:55%(旧・誤)→ 4%(新・正)に訂正済