1
問題提起 — EQ とベット頻度はなぜずれるか
次の 2 枚のボードを見てほしい。どちらも BTN-SB SRP(BTN open / SB call)でフロップを迎えたシナリオだ。
ドンクベット(SB がプリフロップアグレッサー BTN の前にベット)の頻度を観察する。
AsKh2c
SB EQ:53.9%(平均より高い)
SB Donk:5.8%(平均より大幅に低い)
→ EQ が高いのにドンク頻度は極低
7h6h5h
SB EQ:48.9%(平均より低い)
SB Donk:55.7%(平均より大幅に高い)
→ EQ が低いのにドンク頻度は超高
重要な前提:「EQ が高いとベットしやすい」という直感は正しい——ただし不完全だ。
実データでは EQ とベット頻度は正の相関がある(14スポット全てで ρ > 0、スポット間では r=0.91)。
高EQボードほどベットしやすい傾向は本当に存在する。しかしこの 2 つのボードはその傾向だけでは説明できない逆転ケースだ。
EQ は「近似として有効だが必要十分ではない」——ナッツアドバンテージという追加の次元が必要になる。
同様の限界は CB でも観察される。BTN がプリフロップ 3bet して SB をコール側に追い込んだ後、
フロップで BTN が CB を打つ頻度は「BTN の EQ」と強く連動するスポットと、ほとんど連動しないスポットがある(逆転率 1%〜26%)。
Stab でも同様の分化が起きる。この「連動の強さ」を決めるのが SD とナッツアドバンテージの構造だ。
中心命題:EQ は有効な第一近似だが、ナッツアドバンテージが EQ と逆方向を向くとき逆転が生じる。
EQ が高いほどベットしやすい傾向は確かに存在する。ただしそのボードでどちらのプレイヤーがナッツ(最強ハンド群)を多く保有するかという非対称性が EQ を上書きするとき、逆転が発生する。
EQ–Bet 逆転率は mean EQ ではなく SD(両レンジのボード適性分散)によって予測される(r=0.605)。
2
統一フレームワーク — ナッツアドバンテージと SD の正体
Range EQ(レンジエクイティ)
あるボードで bettor のレンジ全体が持つ平均エクイティ。
測定は容易 — スポット × ボードごとに単一の数値として計算できる。
ベット頻度の主要な傾向を説明する(cross-spot r=0.91、全スポット ρ>0)。
「EQ が高いほどベットしやすい」は正しい第一近似。
Nut Advantage(ナッツアドバンテージ)
そのボードで 最強ハンド群(ナッツ)をどちらが多く保有するか。
Range EQ とは独立した概念。EQ が低くてもナッツアドバンテージを持てる(逆もしかり)。
Range EQ と逆方向を向いたとき「逆転」が発生する。ナッツを多く持つ側は相手の re-raise を抑制しながらベットできる。
【観察された仮説】Value Tier Advantage — 第 2 層の効果
Range EQ(mean)と Nut Advantage(top 1-5%)の中間に位置する概念として、
value tier(強いが nuts ではない手、おおよそ 55–80% EQ 帯)をどちらが多く持つか がベット頻度に影響する可能性がある。
mean EQ が同程度のスポット間でも CB 頻度が大きく異なるケース(例:LJ-SB SRP 69% vs BTN-LJ 3BP 60%)がこれで説明できるかもしれない。
これは Range Morphology(Acevedo の分類)の具体的事例にあたるが、
現時点ではビン単位の equity 分布分析が必要で未実証。観察された仮説として記載する。
SD(aggEQ) の正体 — 「アグレッサーの EQ ばらつき」は何を測るか
本分析では各スポットの「EQ–Bet 逆転率の予測因子」として SD(aggEQ) を使用した。
これは アグレッサーのエクイティがボード間でどれだけ変動するか を表す標準偏差だが、
その解釈には重要な注意点がある。
誤解:SD(aggEQ) はアグレッサーの「ボードカバレッジ」を測る
→ これは不正確。アグレッサーのレンジだけを見ているのではない。
正解:SD(aggEQ) は「両レンジのボード間相対強度のばらつき」を測る
アグレッサーの EQ が高いボードは「アグレッサーレンジ ≫ ディフェンダーレンジ」のボードであり、
逆もまた然り。したがって SD(aggEQ) が大きいということは、両レンジの得意ボードが乖離している(一方が Ace ボードに強く、他方がローボードに強い)ことを意味する。
両レンジが貢献する値である点を見落としてはならない。
予測因子の検証
棄却:Preflop EQ は逆転率を予測しない
プリフロップ EQ ≈ ポストフロップ EQ の平均(mean)。しかし逆転率は平均からのばらつきに依存するため、
平均値である Preflop EQ は逆転率の予測に失敗する。
採用:SD(aggEQ) は逆転率を強く予測する(r = 0.818)
CB スポット 7 × 5 深度のパネルデータで、SD(aggEQ) と逆転率の Pearson 相関は r = 0.818。
SD が大きいスポットほど、一部のボードで EQ–Bet が逆転しやすい。
なぜ SD が大きくなるのか — レンジランクギャップ
SD が大きいスポットに共通する構造:アグレッサーとディフェンダーのランク構成が乖離している。
一方が AX 豊富で他方がローカード豊富なとき、Ace ボードではアグレッサーが圧倒し、
低ランクボードではディフェンダーが圧倒する → EQ がボード間で大きく振れる。
| スポット |
SD(aggEQ) |
AX Gap (agg − def) |
Low Gap (6X/7X/8X) |
逆転率 40BB |
| BTN-BB SRP IP CB |
1.82pp |
+2.3pp |
≈0pp |
2% |
| LJ-BB SRP IP CB |
4.72pp |
+19.2pp |
−11.1pp (7X) |
14% |
| BTN-LJ 3BP IP CB |
5.34pp |
+27.7pp |
−17.1pp (6X) |
26% |
| SB-LJ 3BP OOP CB |
6.05pp |
+17.2pp |
−9.1pp (6X) |
4% |
SB-LJ 3BP は SD が最大(6.05pp)にもかかわらず逆転率が 4% にとどまる。これは ρ=+0.71 と EQ-CB 相関が強いため。
SD は「逆転が起きうる素地」を示すが、レンジ構造の複雑さ(SB の connected bluff 等)が EQ-CB アライメントを維持する場合もある。
SD は逆転率の上限を示すが、実際の逆転はレンジ構造で抑制される。
Core Framework:
BetFreq ≈ f(NutAdvantage)
BetFreq ≈ f(RangeEQ)
When Reversal Occurs:
NutAdvantage ← Player A (many top hands)
RangeEQ ← Player B (higher avg equity)
→ Player A bets despite lower avg EQ (reversal)
SD(aggEQ) : measures relative-strength variance across boards
r(SD, reversal_rate) = 0.818
3
全スポット定量化 — ρ と逆転率ヒートマップ
14 スポット × 5 深度の Spearman ρ と逆転率(EQ ±2pp 超 かつ Bet ∓5pp 超のボード割合)。
各セルは ρ / 逆転率% の形式で表示。
| スポット [アクション] |
40BB | 35BB | 30BB | 25BB | 20BB |
| CB — プリフロップアグレッサーのリードベット |
| BTN-BB SRP [IP CB] |
+0.56 / 2% |
+0.62 / 3% |
+0.67 / 5% |
+0.38 / 10% |
+0.41 / 14% |
| LJ-BB SRP [IP CB] |
+0.50 / 14% |
+0.51 / 15% |
+0.58 / 15% |
+0.48 / 17% |
+0.49 / 10% |
| BTN-SB SRP [IP CB] |
+0.53 / 1% |
+0.43 / 2% |
+0.51 / 2% |
+0.30 / 10% |
+0.31 / 12% |
| LJ-SB SRP [IP CB] |
+0.57 / 11% |
+0.52 / 15% |
+0.46 / 15% |
+0.28 / 17% |
+0.29 / 14% |
| BTN-LJ 3BP [IP CB] |
+0.37 / 26% |
+0.47 / 20% |
+0.46 / 17% |
+0.35 / 21% |
— |
| LJ-BTN SRP [OOP CB] |
+0.82 / 4% |
+0.71 / 3% |
+0.66 / 4% |
+0.36 / 9% |
+0.65 / 2% |
| SB-LJ 3BP [OOP CB] |
+0.71 / 4% |
+0.74 / 3% |
+0.62 / 13% |
+0.46 / 12% |
+0.50 / 19% |
| Donk — OOP 非アグレッサーのリードベット |
| BB-BTN SRP [Donk] |
+0.53 / 0% |
+0.47 / 0% |
+0.52 / 0% |
+0.44 / 0% |
+0.54 / 0% |
| BB-LJ SRP [Donk] |
+0.57 / 0% |
+0.58 / 0% |
+0.66 / 0% |
+0.56 / 0% |
+0.62 / 0% |
| SB-BTN SRP [Donk] |
+0.67 / 2% |
+0.63 / 3% |
+0.64 / 3% |
+0.60 / 5% |
+0.67 / 10% |
| SB-LJ SRP [Donk] |
+0.62 / 10% |
+0.62 / 11% |
+0.64 / 11% |
+0.46 / 14% |
+0.58 / 8% |
| LJ-BTN 3BP [Donk] |
+0.54 / 22% |
+0.64 / 27% |
+0.60 / 23% |
+0.57 / 16% |
— |
| Stab — IP 非アグレッサーが OOP チェックを突くベット |
| BTN-LJ SRP [Stab] |
+0.86 / 0% |
+0.79 / 1% |
+0.71 / 1% |
+0.11 / 12% |
+0.13 / 15% |
| LJ-SB 3BP [Stab] |
+0.49 / 9% |
+0.56 / 7% |
+0.51 / 12% |
+0.34 / 16% |
+0.43 / 12% |
ρ 凡例:
+0.80〜 強い正相関 /
+0.55〜0.80 中強 /
+0.40〜0.55 中 /
0〜+0.40 弱 /
≤+0.15 事実上無相関
グループ平均(40BB)
CB — 7 スポット平均
ρ = +0.578
逆転率 avg 8.3%
最高逆転: BTN-LJ 3BP 26%
最低逆転: BTN-SB SRP 1%
SRP avg 逆転: ~6% / 3BP avg: ~15%
SD(EQ) avg: 3.7pp
Donk — 5 スポット平均
ρ = +0.586
逆転率 avg 6.8%
最高逆転: LJ-BTN 3BP 22%
最低逆転: BB-BTN/BB-LJ 0%(全深度)
BB: 常に 0% / SB: 2–10%
SD(EQ) avg: 4.0pp
Stab — 2 スポット平均
ρ = +0.675
逆転率 avg 4.5%
最高 ρ: BTN-LJ SRP 0.858
25BB 崩壊: ρ 0.858 → 0.111
EQ 直結度が最も高い(40BB 基準)
SD(EQ) avg: 4.6pp(最大)
キーパターン:Stab ρ (0.675) > Donk ρ (0.586) ≈ CB ρ (0.578)
EQ に最も素直に従うのは Stab。IP 側が OOP のチェックを確認してから打つため、
「相手の弱さ」という追加情報を得た状態でベット判断できる。CB と Donk は ρ がほぼ同等だが、
逆転パターンの構造は異なる(CB は SRP/3BP の差、Donk は BB/SB の差が支配的)。
4
ドンクベット — ナッツアドバンテージの直接証明
ドンクベットは最もナッツアドバンテージの論理が明示的に現れるアクションだ。
OOP の非アグレッサー(BB/SB)は一般にレンジ EQ で不利でも、特定ボードでナッツを多く保有するとき donk する。
逆に EQ が高くてもナッツアドバンテージがなければドンクできない(相手の re-raise が通りやすいため)。
BTN open vs SB call — プリフロップレンジ構造(40BB)
BTN open — 654 コンボ(49.3% ハンド)
AX: 30.3% / KX: 22.6% / QX: 19.3%
JX: 18.7% / TX: 17.8% / 9X: 16.9%
8X: 17.4% / 7X: 10.1% / 6X: 10.3%
PP22-99: 7.3%(小さい)
SB call vs BTN — 150 コンボ(11.3% ハンド)
AX: 27.1% / KX: 22.5% / TX: 24.0%
(QX, JX は明示なし)
9X: 14.3% / 8X: 13.6% / 6X: 6.4%
PP22-99: 21.4%(大きい)
ランクギャップ表 — SB のナッツアドバンテージを決める構造
Gap = SB% − BTN%。プラスなら SB がそのランクで優位(XXy ボードでナッツアドバンテージ)。
| ランク |
BTN open % |
SB call % |
Gap (SB − BTN) |
XXy Donk 頻度 |
解釈 |
| AX |
30.3% |
27.1% |
−3.2pp |
25% |
BTN ナッツ優位 → donk 低 |
| KX |
22.6% |
22.5% |
−0.1pp |
54.5% |
ほぼ同等だが PP 密度効果で donk 高 |
| QX |
19.3% |
17.4% |
−1.9pp |
28.4% |
BTN わずか優位 |
| JX |
18.7% |
18.5% |
−0.2pp |
17.9% |
ほぼ同等 → donk 低め |
| TX |
17.8% |
24.0% |
+6.3pp ★ |
70.6% |
唯一の有意正ギャップ → donk 最高 |
| 9X |
16.9% |
14.3% |
−2.5pp |
9.2% |
BTN 優位 |
| 8X |
17.4% |
13.6% |
−3.8pp |
14.2% |
BTN 優位 |
| 6X |
10.3% |
6.4% |
−3.9pp |
0.6% |
BTN 優位 → donk ほぼ 0 |
TX ギャップ +6.3pp が TTy ドンク 70.6% を生む
SB は TX コンボを BTN より 6.3pp 多く保有する。TTy(TT2, TT3 等)のボードでは SB の TX が trips/two-pair
に発展し、BTN の広いレンジ(Broadway 多め)を圧倒する。これがドンク頻度 70.6% という異常値の直接原因。
逆に AX/8X/6X ギャップは BTN 優位 → 対応ボードでは donk 極低。
TT2 ボード解剖 — SB がなぜ BTN に対してナッツ優位なのか
SB EQ は BB より高い(55.6% vs 39.1%)が、ドンク頻度の差はさらに大きい(92.5% vs 0.4%)。
なぜ SB はこれほど高頻度でドンクし、BB はドンクできないのか?答えはレンジ構造にある。
BTN の TT2 コンボ構成
TT(クアッズ): 0.9%
22(フルハウス): 0.9%
Tx(trips): 16.8%
PP33-99(オーバーペア手前): 6.4%
SB の TT2 コンボ構成
TT(クアッズ): 0%(3bet で排除)
22(フルハウス): 4.0%(4.4× BTN)
Tx(trips): 24.0%(1.4× BTN)
PP33-99(two-pair化): 17.4%(2.7× BTN)
SB のナッツ優位のメカニズム
SB の tight レンジ(11.3%)はポケットペア密度が高い(PP22-99 = 21.4% vs BTN 7.3%)。
TT2 ボードでは SB の 33+/55+ 等がツーペア(XX + TT / XX + 22)に発展する一方、
BTN の Broadway 手は one-pair 止まり。
SB のポケットペア密度 → two-pair/フルハウスのナッツアドバンテージ → 92.5% ドンク
主要ボード例 — EQ × Donk の乖離パターン
ThTd2c — donk 92.5%
SB EQ: 55.6%(平均超)
理由: TX +6.3pp + PP密度 → two-pair優位
EQ高 + ナッツ優位
AsKh2c — donk 5.8%
SB EQ: 53.9%(平均超)
理由: BTN の AK/AQ/KK がナッツ支配
EQ高 + ナッツ劣位 → reversal
6h5h4h — donk 64.3%
SB EQ: 50.6%(平均並み)
理由: SB の straights/two-pair がナッツ優位
EQ平均 + ナッツ優位
7h6h5h — donk 55.7%
SB EQ: 48.9%(平均以下)
理由: SB がストレート/フラッシュドローでナッツ優位
EQ低 + ナッツ優位 → 最典型 reversal
Ts8h7c — donk 1.9%
SB EQ: 51.0%(平均並み)
理由: BTN open T8/T9/98 equally → SB のナッツ優位なし
rundown = no SB advantage
9s8h7c — donk 5.8%
SB EQ: 50.5%(平均並み)
理由: BTN も 9X/8X/7X 豊富 → SB のナッツ優位なし
rundown = BTN open広さが対称
rundown ボードで donk が低い理由
Ts8h7c や 9s8h7c のような rundown ボードでは、BTN の広いオープンレンジが T8/T9/98/87 などのコネクターを均等に含む。
SB は「このランクが特に多い」という非対称性を作れないため、ナッツアドバンテージが生まれない。
6h5h4h/7h6h5h でドンクできるのは SB が connected hands で相対的にナッツに近い手を多く持つからではなく、
BTN の wide open レンジがこれらの低ランク帯を BTN では薄く持ち、SBの tight call レンジの方が密度が高いからだ。
BB donk = 全深度 0% 逆転 — なぜ BB は逆転しないのか
BB のレンジ特性:ナッツアドバンテージの構造的欠如
BB は BTN/LJ のレイズに対してほぼすべてのハンドをディフェンドできる(wide defending range)。
これはすべてのボードタイプをほぼ均等にカバーすることを意味する。
結果:どのボードでも BB は「特別に多いナッツ」を持てない — アグレッサーも同様のボードカバレッジを持つため。
BB がドンクするのは「明確に EQ が高い時だけ」であり(平均ドンク頻度 3-5%)、
EQ が低ければ絶対にドンクしない。したがって EQ とドンク頻度が完全に連動し、逆転が 0% になる。
法則:超低頻度ベット(< 5%)は EQ-Bet 相関が高くなる傾向がある。
KKy ボード — donk 54.5% の謎(KX Gap = −0.1pp なのに高ドンク)
KX のランクギャップは −0.1pp と事実上ゼロなのに、KKy ボードでの donk は 54.5%。
これはポケットペア密度効果(PP22-99 SB=21.4% vs BTN=7.3%)による universal two-pair advantage。
KKy では SB のほぼ全ポケットペアが KK + 小ペアのツーペアに化け、BTN の Broadway hands は one-pair どまり。
ランクギャップだけでは見えない、ペア密度が作るナッツ優位の典型例。
5
CB — レンジ幅と SD
CB(プリフロップアグレッサーのリードベット)は最もシンプルに見えるが、
スポットによって ρ が +0.37〜+0.82 と大きく分散する。
この分散を決めるのは「レンジ幅」と、そこから派生する「SD(aggEQ)」だ。
① SRP — レンジ幅が SD を決める
広いレンジ(BTN open 49.3%)→ 低 SD → 低逆転率
BTN の open レンジは全ランクをカバーする(AX〜小コネクター)。Ace ボードでも低ランクボードでも
BTN はまんべんなく当たるため、EQ がボード間で大きく変動しない(SD 低)。
BTN-BB SRP は SD = 1.82pp と最低水準 → 逆転率 2%。
狭いレンジ(LJ open ~22%)→ 高 SD → 高逆転率
LJ の open レンジは AX/KX 集中型。AX ギャップ +19.2pp(LJ vs BB)。
Ace/King ボードでは LJ が圧倒するが、低ランクボードでは BB の広いレンジが逆転することがある。
LJ-BB SRP SD = 4.72pp → 逆転率 14%。
② 3BP IP(BTN-LJ) — 26% 逆転の構造
BTN-LJ 3BP: 最高逆転率 26% / ρ = +0.37
BTN の 3bet レンジは AX 集中型(Ax 比率 ~52%)。LJ のコールレンジは AQ/AJ/小ペア/SC で構成。
• Ace ボード: BTN の AK/AQ がトップペア → BTN CB 高頻度
• Low ボード: LJ の SC/小ペアが当たる、BTN は Ace を「Aで行動」しにくい
• BTN の EQ は Ace ボードで高く Low ボードで低い → SD = 5.34pp(最大級)
しかし LJ もコールレンジに Broadway を持つため、Ace ボードでは EQ が安定する。
本当に EQ と CB がずれるのは Low/Connected ボードで発生 → 26% 逆転。
③ 3BP OOP(SB-LJ) — 修正後 ρ=+0.71 / 逆転率 4%
重要修正:前レポート「SB-LJ 3BP OOP CB 逆転率 55%」は計算誤りだった
旧結果(誤): ρ = −0.49 / 逆転率 55%
新結果(正): ρ = +0.71 / 逆転率 4%
原因:旧分析では lj_3bp_sb_stab(LJ のスタブデータ)を SB の OOP CB として誤用し、
LJ bettor の EQ ではなく SB の EQ を参照していた。LJ のスタブ vs SB の EQ は自然に負の相関になる
(SB が強い = SB が CB する = LJ がスタブできない)ため ρ=−0.49 という誤値が出た。
SB-LJ 3BP OOP CB の正しい理解:ρ=+0.71 / 逆転率 4%
SB は 3bet レンジとして value(QQ+/AK 等)だけでなく connected bluff(SC 系)を含む複雑なレンジを持つ。
低ランクボードでは SB の connected bluffs が EQ を得るが、これが CB と整合するため EQ-CB アライメントが維持される。
SD = 6.05pp(最大)にもかかわらず逆転率 4% にとどまるのは、SB のレンジ構造がボード間の EQ 変動を
CB 頻度変動と同方向に生じさせるから。
SD と逆転率のまとめ(CB スポット)
| スポット |
レンジ特性 |
SD(aggEQ) |
ρ (40BB) |
逆転率 40BB |
| BTN-BB SRP IP CB |
BTN 広 → 全ランクカバー |
1.82pp |
+0.56 |
2% |
| BTN-SB SRP IP CB |
BTN 広、SB の tight range との相互作用 |
〜2pp |
+0.53 |
1% |
| LJ-BB SRP IP CB |
LJ 中広、AX 集中 |
4.72pp |
+0.50 |
14% |
| LJ-SB SRP IP CB |
LJ 中広 vs SB tight |
〜4pp |
+0.57 |
11% |
| LJ-BTN SRP OOP CB |
LJ OOP、ナッツ保護の動機 |
〜3pp |
+0.82 |
4% |
| BTN-LJ 3BP IP CB |
BTN Ax集中 3bet |
5.34pp |
+0.37 |
26% |
| SB-LJ 3BP OOP CB |
SB connected bluff + value |
6.05pp |
+0.71 |
4% |
CB の主原則:SD が高くても ρ が低くなるとは限らない
BTN-LJ 3BP は SD=5.34pp で ρ=0.37(低)。一方 SB-LJ 3BP は SD=6.05pp でも ρ=0.71(高)。
SD は「逆転しうる素地」を示すが、レンジの内部構造(連動する bluff があるか、EQ 変動と CB 判断が同方向か)が
実際の ρ を決める。SD と ρ は相関するが、一対一対応ではない。
6
スタブ — EQ 直結と SPR 崩壊
Stab(IP の非アグレッサーが OOP アグレッサーのチェックを突くベット)は、3 アクション中で最も EQ に直結する。
しかし 25BB というスタック深度の閾値を超えると、この強い EQ 依存が劇的に崩壊する。
① BTN-LJ SRP Stab — ρ=0.858(全スポット最高)
なぜ Stab は EQ に最も素直に従うのか?
BTN は LJ の open をコールしたレンジ(非常に広い)を持ち、フロップでは LJ が先にチェック。
この OOP チェックは「LJ が弱い/中程度の手」というシグナルを含む。
BTN はこの追加情報を得た上でスタブ判断を行う。
• レンジが広い → すべてのボードタイプをカバー → EQ がボード間で極端に変動しない
• IP の立場 → レンジ保護の動機が低い(トラップより素直なベット優位)
• OOP チェックで相手の弱さを確認 → 「EQ が高い = 相手より強い」をダイレクトに確認
→ EQ とスタブ頻度が最も直接的に連動 → ρ = 0.858 / 逆転率 0%
② 25BB でのρ崩壊 — SPR によるゲーム構造の変化
なぜ 25BB で Stab の ρ が 0.858 → 0.111 に崩壊するのか?
25BB では BTN がスタブした後に LJ がオーバーシャーブ(all-in re-raise)できる SPR 帯に入る。
BTN は「スタブして LJ にシャーブされたら call できるか?」をボードごとに計算する必要がある。
• モノトーンボード(LJ のフラッシュドローが shove できる)→ BTN は EQ があっても stab を自制
• Low/dry ボード(LJ がシャーブしにくい)→ BTN は EQ が低くても stab する(プロテクション目的)
意思決定軸が「EQ → ナッツアドバンテージ」から「テクスチャ/保護価値」に移行し、EQ との相関が事実上消滅する。
③ LJ-SB 3BP Stab — ρ=0.491 / 逆転率 9%
3BP Stab は SRP と比べて ρ が低く逆転率が高い(9%)理由
LJ-SB 3BP では SB が 3bet アグレッサー、LJ がコーラー(IP)。
SB の 3bet レンジは Ax 集中型のため、Ace ボードでは SB が当たりやすく LJ のスタブ機会が少ない。
LJ は「SB がチェックした = SB が弱い」を確認しても、SB の 3bet レンジへの恐怖(Ax 多め)が
スタブを抑制する場面がある。SPR も SRP より低いため shove 閾値が高く、25BB でも崩壊幅は BTN-LJ SRP ほどではない。
3BP でのスタブは SRP ほど EQ 直結にならない。ρ=0.491 は中程度。
| スポット |
40BB ρ |
25BB ρ |
ρ 変化 |
原因 |
| BTN-LJ SRP Stab |
+0.858 |
+0.111 |
−0.747 |
LJ shove 圧力(最大) |
| LJ-SB 3BP Stab |
+0.491 |
+0.340 |
−0.151 |
SB shove 閾値が高い |
| BTN-BB SRP IP CB |
+0.56 |
+0.38 |
−0.18 |
BB shove 圧力(中程度) |
| LJ-BTN SRP OOP CB |
+0.82 |
+0.36 |
−0.46 |
BTN shove 圧力 |
| BB-LJ SRP Donk |
+0.57 |
+0.56 |
−0.01 |
ほぼ影響なし |
25BB 法則:Stab が最も深度変化を受け、Donk が最も影響を受けない
Stab(IP non-aggressor)は相手の shove 圧力に最も晒される。OOP が check→LJ shove という動線が
BTN にとって最も危険。Donk(OOP non-aggressor)は自身が shove する側になるため、
スタック深度の影響を受けにくい(donk 自体がshove宣言に近い)。
7
実戦への示唆 — アクションタイプ別判断フレーム
これまでの分析を踏まえて、フロップでの 3 つのアクションタイプそれぞれに対する判断フレームワークを整理する。
「EQ を見る」だけでは不十分であり、ナッツアドバンテージの評価が常に先行する。
CB — いつプリフロップ EQ を信頼するか
- BTN SRP: EQ で判断 OK(ρ>0.50, 逆転<5%)
- LJ SRP: EQ は参考、SD が高い(逆転 11-14%)
- 3BP IP: EQ より「相手のコールレンジにヒットするか」を先に見る(26%逆転)
- 3BP OOP: EQ で判断 OK(SB-LJ は ρ=0.71, 逆転 4%)
- 25BB 以下: shove 圧力でEQは無効化(逆転増加)
Donk — ナッツアドバンテージの確認が最優先
- BB donk: EQ 高い時だけ → 機会は選ぶが迷いなし(逆転 0%)
- SB donk: ランクギャップを確認。TX +6.3pp → TTy OK、AX ギャップ負 → AXy は慎重
- PP 密度効果を意識: SB の tight レンジはペアが多い → XX ボードで two-pair 優位
- rundown ボード(98x, T87 等): BTN が均等カバー → SB ナッツ優位なし → donk 控える
- Low connected(654, 765): SB の SC が当たる → ナッツ優位 → donk 検討
Stab — 深度で判断基準が変わる
- 40-30BB: EQ で判断 OK。OOP チェックを受けたら EQ 高い手でスタブ(ρ 0.71-0.86)
- 25BB以下: EQ より「OOP が shove できるか」を先に見る(ρ 崩壊)
- モノトーン/フラッシュボード at 25BB: OOP のshove に弱い → スタブ慎重
- dry/paired ボード at 25BB: OOP がshoveしにくい → EQ高ければスタブ可
- 3BP Stab: 常により慎重(3bet相手のレンジ圧力あり、ρ=0.49)
統合チートシート — アクションタイプ × 状況別判断軸
| 判断状況 |
CB | Donk | Stab |
| EQ で判断できる度合い(40BB) |
中(ρ≈0.578) |
中(ρ≈0.586) |
高(ρ≈0.675) |
| ナッツ優位が必要か |
間接的(レンジ SD) |
直接的(ドンクの前提) |
間接的(OOP 弱さ確認で代替) |
| 逆転が多いケース |
3BP IP 26% |
3BP Donk 22% |
25BB 以下 12-15% |
| 逆転がほぼない安全ケース |
BTN SRP 1-2% |
BB SRP 0%(全深度) |
SRP 40-30BB 0-1% |
| 25BB 以下での変化 |
moderate ↓(−0.18 ρ) |
ほぼ影響なし(−0.01 ρ) |
崩壊(−0.747 ρ) |
| SRP vs 3BP の差 |
大(SRP 1-14% / 3BP 4-26%) |
大(SRP 0-10% / 3BP 22%) |
中(SRP 0% / 3BP 9%) |
フレームワーク再確認
統一法則 — EQ は有効な第一近似、ナッツアドバンテージがその限界を説明する
EQ とベット頻度は正の相関があり(全 14 スポットで ρ > 0、スポット間 r=0.91)、
「EQ が高いほどベットしやすい」という直感は近似として正しい。
しかし EQ だけでは次のケースを説明できない:
EQ が高くてもナッツアドバンテージがなければ高頻度でベットできない(AsKh2c の SB donk 5.8%)。
EQ が低くてもナッツアドバンテージがあれば高頻度でベットできる(7h6h5h の SB donk 55.7%)。
EQ–Bet の逆転はこの「EQ vs ナッツアドバンテージの乖離」が顕在化した現象。
逆転率は SD(aggEQ) で予測できる(r=0.605–0.818)が、
プリフロップ EQ(= mean PostflEQ)では予測できない(r≈0)。
実戦での問い:フロップ判断の順序
1. このボードで自分のレンジのトップハンド群(ナッツ)はどちら側に多いか?
2. ナッツ優位がある場合 → ベット(Donk/CB/Stab の使い分けは役割で)
3. ナッツ優位がない・不明な場合 → Range EQ を次の判断基準に使う
4. 25BB 以下の Stab → 1〜3の前に「OOP は shove できるか?」を確認する
SD(aggEQ) の実戦的使い方
SD は事前計算が必要なためリアルタイムには使えないが、概念として使える。
「このスポットの 2 つのレンジは、どのランクのボードで強く、どのランクで弱いか」が乖離しているほど、
ボードごとのベット判断は EQ だけで決まらない。乖離が大きいスポット(3BP IP CB 等)では
Range EQ を信頼しすぎないこと。
Data: GTO Wizard MTTGeneral ICM 9m200 PTpct50 /
CB: 7 spots / Donk: 5 spots / Stab: 2 spots × 99–104 boards × 4–5 depths / 40BB 基準
SB-LJ 3BP OOP CB 逆転率:55%(旧・誤)→ 4%(新・正)に訂正済