凡例:
Blog GTO Wizard公式ブログの知見
Data 本プロジェクトのGTO Wizardスクレイピングデータ
Advanced ブログ未掲載・独自分析(査読なし)
Part 1 — 理論基盤
GTO Wizard公式ブログの言説をもとに、CB判断の理論的骨格を整理する
1
レンジ形態論 — Polar vs Condensed の定義
Blog
GTO Wizard Blogの"Range Morphology"では、レンジを以下の3形態に分類している。
ポーラー(Polar)
ナッツ級の強ハンド(value)と完全ブラフ(air)が分極し、中間強度が少ないレンジ。
典型例:プリフロップ3ベッター(KK/AA + スーテッドコネクター)、またはアンペアード・ロウボードでのBTN/LJオープン。
コンデンスト(Condensed)
中間強度のハンドが密集し、ナッツ数が少ないレンジ。プレミアムは3ベットや4ベットで分離されている。
典型例:SBのコールレンジ(AA/KKは3ベット、22-66+スーテッドコネクターで構成)。
SBコールレンジがコンデンストである根拠:
SBはLJオープンに対してAA/KK/QQ/AKを3ベットに回す。残るコールレンジはJJ-22とスーテッドコネクター・Axスーテッドが中心となり、プレミアムが薄い「中間密集型」になる。
CB戦略との接続:
ブログでは「コンデンストレンジはCBに対してコールしやすく、ブラフの成立余地が低い。ポーラーレンジはLargeベットが効果的であり、コンデンストレンジに対してはSmall/Mediumが有効」と述べている。
GTO Wizard Blogの"The Mechanics of C-Bet Sizing"は、CBサイジングを決める主要因を以下のように整理している。
主要因1:ナッツアドバンテージ
「相手より強いナッツ群を多く持つ側」がLargeベットを正当化できる。
ナッツアドバンテージがある側はブラフとバリューを同じLargeサイズで打てるため、レンジ全体としてポーラーな構成が可能になる。
主要因2:レンジアドバンテージ(EQ優位)
単純にEQが高い側はSmallベットで広く薄くバリューを取れる。ただしナッツアドバンテージが伴わなければ、Largeベットに対して「コールに応答できる相手」が残りやすくなる。
主要因3:ボードのウェットネスと「ミドルハンド」の存在
Dry Board
Large有効
相手のドロー・アウツが少なく、ポット保護の必要性が低い。フォールドエクイティを最大化するためにLargeが使われる。
Wet / Connected Board
Small有効
相手のドロー・SD・FDが多く、「ミドルハンド」が相手に広く存在する。Largeはバリューハンドが薄くなりすぎる危険がある。
重要:ウェットネスのパラドックス
「コネクテッドなボードほどCBサイズが小さくなる」というのが基本原則だが、
AJT型のブロードウェイコネクタはとくに「LJのレンジ自体がコンデンストになる」効果が重なり、
さらにサイズを小さく・チェックバックを多くする方向に働く(後述 Section 4)。
GTO Wizard Blogの"Interpreting Equity Distributions"では、EQグラフを「各プレイヤーのレンジ形態を可視化するツール」として位置づけている。
読み方:
- X軸:そのプレイヤーのハンド(弱→強 にパーセンタイル順)
- Y軸:各ハンドのエクイティ(0%=完全に負け、100%=完全に勝ち)
- 右側に急な段差(ステップ)がある → ポーラーレンジ(ナッツ群が突出)
- なだらかなS字曲線 → コンデンストレンジ(中間強度が密集)
「レンジバケツ」の活用
GTO Wizardの「レンジ比較」機能では、EQを25%刻みのバケツに分類した分布が確認できる。
このバケツデータにより「どの強度帯にハンドが集中しているか」が定量的に把握できる。
EQ 70-100% → 多い
EQ 25-50% → 多い
EQ 50-70% → 少ない
EQ 50-75% → 非常に多い
EQ 90-100% → ほぼない
Part 2 — パズルを解く
「T72rのCB頻度 > AJTrのCB頻度」という直感に反する逆転現象を、理論とデータの両面から解明する
4
T72r vs AJTr — EQグラフが語るレンジ形状の違い
Blog
Data
GTO Wizardから取得した2つのボードのEQグラフとレンジバケツデータを比較する。
LJ-SB SRP (even_35) でLJがCBを検討する局面。
EQバケツ分布(LJ vs SB)
T72r (Ts7h2c) — LJ のバケツ分布
※ GTO Wizardスクリーンショットより(概算値)。70-90%ゾーンはオーバーペア群(JJ-AA)、25-50%はノンペア・バックドア群。
T72r (Ts7h2c) — SB のバケツ分布
※ SBの62%が25-50%(アンダーペア+マージナルヒット)。LJ視点でのフォールドエクイティの源泉。
AJTr (AsJhTd) — LJ のバケツ分布
※ 60-70%ゾーンに33%が集中 → コンデンストレンジの典型。これがトップペア/セカンドペア/ドロー群。
AJTr (AsJhTd) — SB のバケツ分布
※ 44%がゴミ(0-25%)だが、18%が50-70%(Axトップペア)= Largeに対しても降りない相手。
解釈の核心:
T72rではLJがポーラー(強手 + エア)、SBがコンデンスト(アンダーペア密集)。
AJTrではLJがコンデンスト(トップペア/セカンドペア/ドロー密集)、SBにはAxトップペアが大量に存在する。
この形状の違いが、CB頻度とサイジングの逆転を生み出す。
5
データ検証 — LJ-SB SRP 実測CB頻度とサイジング
Data
GTO Wizardスクレイピングデータ(LJ-SB SRP, even_35)の実測値。LJがIPでCBを打つ局面。
Ts7h2c (T72r)
Low disconnected rainbow — LJ有利のドライボード
LJ CB頻度(合計)
82.1%
LJ EQ
52.5%
サイジング内訳
Large 61.4%
S 20.7%
Ck 17.9%
Large = 3.9x ポット(約175%) / Small = 1.2x ポット(約50%)
AsJhTd (AJTr)
High connected rainbow — SBが多くヒットするブロードウェイ
LJ CB頻度(合計)
68.9%
LJ EQ
63.0%
AJTrではLargeはほぼ使われない(0.6%)。Small中心でポットコントロール。
逆転の数値確認:
LJ EQはAJTrが63%(T72rより+10.5pt)なのに、CB頻度は AJTr 68.9% vs T72r 82.1% でT72rの方が13.2pt高い。
さらにサイジングもT72r=Large中心 vs AJTr=Small中心と逆転している。
類似ボードでの確認
| ボード |
タイプ |
LJ EQ |
CB合計 |
Large比率 |
Small比率 |
Check比率 |
| Ts7h2c |
T72型 |
52.5% |
82.1% |
61.4% |
20.7% |
17.9% |
| Ts6h2c |
T72型 |
52.4% |
80.3% |
— |
— |
19.7% |
| 9s8h2c |
T72型 |
50.6% |
64.4% |
— |
— |
35.6% |
| AsJhTd |
AJT型 |
63.0% |
68.9% |
0.6% |
68.3% |
31.1% |
| AsQhJd |
AJT型 |
65.0% |
99.9% |
— |
— |
0.1% |
※ データ: GTO Wizard LJ-SB SRP even_35。AsQhJdはAハイだがトップセット(AA/QQ/JJ)が多くほぼ全CBとなる特殊ケース。
6
統合分析 — なぜT72rでLarge、AJTrでSmallなのか
Blog
Data
Section 4のEQグラフとSection 5のCBデータを接続し、逆転現象の機序を整理する。
T72r でLargeが使われる理由(3つの条件が揃う)
- LJのレンジがポーラー:オーバーペア(JJ-AA)= ナッツ群 + ブロードウェイノンペア(KQ,AQ等)= エア群。
ポーラー構成でLargeが均衡戦略として成立する(ブログ Rule 1)。
- SBのアンダーペアが高弾性:33-66はT72rで「アンダーペア」となり、Largeベットに対してEVネガティブなコールを強いられる。
フォールドが最善となりやすく、LJにとってフォールドエクイティが生まれる。
- SBのナッツが少ない:SBの90%+EQは77や22(セット)のみ。全体の5%程度と少ない。
Largeを打っても「クラッシュされる」確率が低く、リスクが抑えられる。
AJTr でSmall中心・チェック多めになる理由(3つの阻害要因)
- LJのレンジがコンデンスト:KQ(ガットショット)、QJ(ボトムペア)、J9(セカンドペア)等がAJTrでは「中間強度」に収束。
ポーラー構成が作れず、Largeサイズの均衡条件が成立しない(ブログ Rule 2)。
- SBのAxトップペアが低弾性:SBのA9s/A8s/A7s等はAJTrでトップペアとなる。
トップペアはどんなサイズにもコールが有利なため、LargeでもFoldしてくれない。
→ フォールドエクイティが存在せず、Largeのリターンが保証されない。
- チェックバックのEVが高いハンドが多い:LJの「コンデンスト中間ハンド」(KQs=ガットショット、Qx系等)はCBしてもコールされやすく、ポットを大きくするメリットが小さい。
チェックバックしてフリーカードを受けた方が期待値が高いケースが多い。
一言で言えば:
T72rは「ポーラーなLJ vs 弾性の高い(Largeに降りやすい)SB」の構図。
AJTrは「コンデンストなLJ vs 弾性の低い(Axトップペアが降りない)SB」の構図。
EQの絶対値ではなく、レンジ形状と相手の弾性がCB戦略を決める。
Part 3 — Advanced(独自分析)
GTO Wizard公式ブログには掲載されていない独自分析。査読なし・参考情報として扱うこと。
7
SBコールレンジの構造的偏りとボード別ヒット密度
Advanced
Data
注意:
以下はGTO Wizardスクレイピングデータ(sb_defend_vs_btn, even_35)を用いた独自分析。
SB vs BTN のデータを SB vs LJ の近似として使用しており、誤差が存在する可能性がある。
SBコールレンジの組成
ポケットペア
19.7%
22-88が中心(99以上は3ベット or フォールド)。合計 ≈24コンボ
Axスーテッド
20.5%
A2s〜A9sがほぼ全てコール。合計 ≈25コンボ
Kxスーテッド
14.9%
K5s〜KJsが中心。合計 ≈18コンボ
ボード別ヒット率の比較
| ハンド |
AJTr でのヒット |
T72r でのヒット |
弾性(Largeへの反応) |
Axスーテッド(A2s-A9s) ≈25コンボ(20%) |
Aトップペア ✅ |
ほぼ空振り ❌ |
低(コール) |
ポケットペア(22-88) ≈24コンボ(20%) |
アンダーペア ❌ |
22/77=セット ✅ 33-66=アンダーペア ⚠️ |
高(フォールド) |
Tx スーテッド(T7s, T8s, T9s) ≈6コンボ |
セカンドペア ✅ |
Tトップペア ✅ |
中(状況依存) |
Jx / Qx スーテッド J9s, J8s, Q9s等 |
セカンドペア/ドロー ✅ |
空振り ❌ |
中 |
Kx スーテッド K5s-KJs ≈18コンボ |
ブロードウェイドロー |
空振り ❌ |
中 |
AJTr — SBヒット分析
総ヒット(ペア以上 + ドロー)
37%(≈45コンボ)
うち Aトップペア(Axs)
≈27コンボ(22%)
うち T/Jペア + ドロー
≈11コンボ(9%)
Axスーテッド(A2s-A9s=20%)が全て「Aトップペア」として当たる。
これが LJ の Largeベット阻害の最大要因。
T72r — SBヒット分析
総ヒット(ペア以上 + ドロー)
26%(≈32コンボ)
うち強ハンド(セット + Tトップペア)
≈14コンボ(12%)
うちアンダーペア(33-66)
≈16コンボ(13%)
ヒットの半分が「アンダーペア」。これがLargeに高弾性で反応し、
フォールドエクイティを生み出す。セット(22/77)は強いが少ない(7%)。
構造的非対称の発見:
SBのAxスーテッドという「コアハンド群」が、AJTrではほぼ全てトップペアとして「当たり」、
T72rではほぼ全て空振りになるという構造的な偏りが存在する。
この偏りが、同じSBコールレンジでもボードによってLJのCB戦略が180度変わる根本原因のひとつ。
8
弾性(Elasticity)の精密な議論
Blog
Advanced
GTO Wizard Blogの"Overbetting the Flop in Cash Games"では「弾性(Elasticity)」の概念が導入されている。
弾性の定義(Blogより):
「あるハンドがベットサイズの変化に対してどれだけコール/フォールドの判断を変えるか」。
高弾性なハンドはLargeに降り、Smallにはコールする。
低弾性なハンドはどのサイズにもコールする(またはどのサイズにもフォールドする)。
高弾性ハンド(Large → フォールド)
T72rでのSBアンダーペア(33-66)
- フロップでボード上位ハンドに大きく劣後
- Largeベットに対して「コールEV = ほぼ0 or マイナス」
- ターン・リバーでの改善確率も低い(アウツ2枚のみ)
- → LargeにフォールドがEV最大化
低弾性ハンド(Large → コール継続)
AJTrでのSB Axトップペア(A7s-A9s等)
- フロップでトップペア = 強力なショーダウン価値
- 大きなポットでも相手のブラフレンジに勝てる
- コールしてターンで情報を得るのが長期的に有益
- → どのサイズにもコールが有利
LJのサイジング選択の論理
LJ overpairs → value bet Large
LJ broadway air → bluff Large
SB underpairs (33-66) → fold to Large
→ Large EV > Small EV
LJ top pair / SD → value bet Small
SB Ax top pair → call any size
LJ middling hands → check-back
→ Small EV > Large EV
MTT特有の考慮事項(35BB深さ):
35BBではオールインエクイティの重みが大きくなる。T72rでLargeベットを打つと、
SBがセット(77/22)を持っている場合にオールインされるリスクがある。
ただし、セット密度が低い(≈7%)ことからLargeの期待値が優ることが多い。
AJTrでは、SBがAxトップペアでコールしてきた後のターン・リバーの展開が複雑になるため、
Smallでポットを小さく保つことでプレイを管理しやすくする効果もある。
まとめ — 3つの原理と実践的含意
1
EQ ≠ CB頻度・サイズの決定因子
EQが高くても(AJTr=63%)、レンジがコンデンストなら CB頻度は低くなる。EQが低くても(T72r=52%)、レンジがポーラーでフォールドEQがあれば CB頻度は高くなる。
2
レンジ形状(Polar vs Condensed)がサイジングを決める
ポーラー = Large推奨(ナッツとエアを同じサイズで打てる)。コンデンスト = Small/Medium推奨(Largeで打てるナッツが薄い)。T72rのLJ=ポーラー、AJTrのLJ=コンデンスト。
3
相手の弾性がフォールドEQを左右する
SBのアンダーペア(T72r)はLargeに高弾性(フォールドしやすい)。SBのAxトップペア(AJTr)はLargeに低弾性(どのサイズにもコールしやすい)。SBのAxスーテッドというコアハンドが、AJTrでのみ全てトップペアになるという構造的偏りがこれを固定する。
実践的含意:
フロップCBを考える際は「自分のEQは?」より「自分のレンジはPoler or Condensed?」「相手の降りやすいハンドはどれだけある?」を先に問うこと。
AJTrでは「EQ高いからLarge」は誤り。T72rでは「EQ低いからCheck」も誤り。
データ: GTO Wizard MTT General ICM 9max 200PT PCT50 · even_35 シナリオ · LJ-SB SRP
理論ベース: GTO Wizard Blog (Range Morphology / CB Sizing Mechanics / Interpreting Equity Distributions / Overbetting the Flop)
本レポートのPart 3は独自分析であり、査読済み情報ではありません。