Fundamentals · Series 1

フロップ戦略の基礎理論
CB / Donk / Stab — なぜ打つのか、なぜ打たないのか

GTO Wizard アグリゲートレポート(MTTGeneral_ICM9m200PTPCT50)全スポット・全 ES 深度(40→20BB)分析に基づく。
レンジ動態・ボードテクスチャ・サイズ選択・スタック深度の4軸でフロップ戦略を体系化する。

目次

  1. CB / Donk / Stab — 3つのアクションの定義
  2. プリフロップレンジが全ての土台
  3. ボードテクスチャとCB頻度の関係
  4. サイズ選択の論理 — Small / Large / Allin をどう使い分けるか
  5. Effective Stack(ES)がサイズ体系を変える
  6. 理論まとめ — 実戦思考フロー

1CB / Donk / Stab — 3つのアクションの定義

フロップで起きるベットは大きく3種類に分類される。それぞれ誰が、どのような立場で打つかが異なり、戦略の構造も根本的に違う。

Continuation Bet(CB)

プリフロップのアグレッサーが、フロップでもベットするアクション。LJ がオープン → BTN がコール → LJ がフロップでベットすれば CB。

レンジ上の優位(エクイティ・ナッツアドバンテージ)を持つ側のアクションであり、最も頻度が高い。

Donk Bet

OOP(アウトオブポジション)かつ非アグレッサーがフロップでリードするアクション。BTN がオープン → BB がコール → BB がフロップでベット。

「チェックしてレイザーに打たせる」の逆。GTO 頻度は平均 2〜5% と極めて低い。

Stab

OOP プリフロップアグレッサーがフロップでチェックした後、IP がベットするアクション。LJ がオープン → BTN がコール → LJ がフロップでチェック → BTN がベット = BTN の Stab。

OOP レイザーの「チェック=弱さ」のシグナルを利用し、IP が fold equity を取りに行く。

この記事のスコープ:フロップ CB と Donk、および LJ-BTN SRP で LJ(OOP アグレッサー)がチェックした後に BTN が打つ Stab を扱う。データは MTTGeneral ICM 9人・200人・PTコース 50%(バブル付近)、5つの ES 深度(40/35/30/25/20BB)。

2プリフロップレンジが全ての土台

フロップ CB で最もよく聞かれる問い「このボードは自分に有利か?」は、実は正しい問いではない。WizardBlog の記事(Flop Heuristics: IP C-Betting in MTTs)が指摘するように、正しい問いは「このボードはコーラーのウィークなレンジをどれだけ助けるか?」だ。

プリフロップのオープンレイザーは、ブラインドコーラーに対して常にレンジ上の優位を持ってフロップを迎える。理由は3つある:

① ディスカウントコール問題

  • BB はすでに1BB 投入済みで好オッズを得る
  • → 本来フォールドすべき弱いハンドでもコールできる
  • → BB のコールレンジはオープンレンジより大幅に弱い

② リレイズリスクの非対称性

  • オープンレイザーは 3-bet リスクを踏まえてレンジを構築
  • → 強いハンドを多く含む(アンキャップドレンジ)
  • BB のコールは 3-bet でなく最良ハンドをフォールドしやすい

③ アンキャップドレンジ

  • BB はほとんどのビッグハンドで 3-bet を選ぶ
  • → コールレンジは「キャップされている」
  • → オープンレイザーのレンジには AA/KK/AKs が豊富

コールド・コーラーの場合(OOP CB)

  • BTN など IP コールド・コーラーは BB よりレンジが強い
  • → OOP レイザーのレンジ優位は縮小または消滅
  • → OOP CB はより慎重かつ選択的に

核心的な考え方

フロップで CB する理由は「このボードに hit した」からではなく、「自分のレンジがコーラーのレンジより強い」という事前の優位があるから。ボードテクスチャは、その優位がどの程度維持または縮小されるかを決める二次的要因に過ぎない。

Donk が(ほぼ)機能しない理由

上記のレンジ動態から、BB / SB の Donk 頻度が極めて低い(平均 2〜5%)理由が直接説明される。エクイティ劣位に立つプレイヤーが自分からポットを大きくするインセンティブは少ない。チェックしてオープンレイザーに CB させ、チェックレイズのオプションを維持する方が EV は高い。

Donk が発生する例外:

3ボードテクスチャとCB頻度の関係

レンジ動態が CB の「ベースライン」を決めた後、ボードテクスチャがそのベースラインを上下させる。コーラーのレンジを助けるボードほど CB 頻度を下げ、助けないボードほど CB 頻度を上げるのが原則だ。

コーラーのレンジを助ける3つの経路

WizardBlog(IP C-Betting in MTTs)が整理したように、ウィークなコーラーレンジが「粘れる」のは次の3ルートだ:

ルート説明CB へのインパクト
① ペアどんな弱いペアでもフロップベットに続行できるペアボード(BB が 2 枚でヒット困難)は CB 向き
② フラッシュドロー2枚フラドロは持ち続けて続行できる強力なオプションモノトーンは BB フラドロ多 → CB 頻度 ↓ かつポーラー
③ ストレートドローOESD/ガットは EV がありフォールドしないコネクテッドはドロー豊富 → CB 頻度 ↓、使うなら大 size

ボードカテゴリ別 CB 傾向

ボードカテゴリ CB 頻度推奨サイズ理由
Paired · DrySmall BB が 2 枚でしかヒットできない。ウィークなレンジを大量にフォールドさせられる
Rainbow · DrySmall〜Large バックドアフラドロのみ。Small でレンジ全域をベット、ナッツ優位があれば Large も
Two-tone · Unconnected中〜高Small or Large フラドロあり。2択戦略(Small で頻度維持 or Large でポーラーに)
Connected · Two-toneLarge ドロー豊富。CB するなら大きくして fold equity を確保
MonotoneSmall(ほぼ全域) BB のフラドロが豊富でチェックレイズリスクが高い。Large は激減
Connected · Straight Made低〜中Large or Check ナッツが BB 寄りになる可能性。OOP ではチェックが最善になりやすい
ミディアムカードボードが最もCBしにくい理由
T〜7 周辺のボードは BB のコールレンジと最も噛み合う。BB はコール時にミディアムカードを多く含み、かつコネクテッドになりやすい(T-9-8 など)。オープンレイザーの強みはブロードウェイカードと大きなペアだが、これらはミディアムボードでは相対的に弱くなる。

Medium vs High Card の CB 頻度(lj_btn_cb even_40 より)

カテゴリCB 合計SmallLarge特徴
King|Rainbow92%45%47%Large が Small に匹敵。ナッツ優位が大きい
Pair|Rainbow64%58%6%Small 主体で高頻度。ペアボードは BB にとって過酷
TJ9|Rainbow66%9%57%CB するなら Large 一択(ドライでもナッツ確認必須)
Connected|Two-tone49%11%38%低頻度だが CB するなら Large でドロー牽制
Connected|Mono44%40%4%Small のみ。チェックレイズ回避

4サイズ選択の論理 — Small / Large / Allin をどう使い分けるか

サイズ選択は「何を達成したいか」から逆算する。WizardBlog(OOP C-Betting in MTTs)はベストなベットハンドとチェックハンドを次のように整理している:

Large ベットに向くハンド

  • 強いが脆弱なハンド(改善なしでもビッグポットを戦える、ただしターン/リバーで弱くなるリスクあり)
  • ナッツ級ドロー(セミブラフ:コールされても改善すれば勝てる)
  • → 例:TJ9 ボードでの AA/KK(ドローが来ると弱くなる)

Small ベットに向くハンド

  • レンジ全域の fold equity を安価に得たい場面
  • 相手のウィークなエクイティ(弱いオーバーカード等)をフォールドさせる
  • → ドライ Rainbow/ペアボードで BB が大量のゴミハンドを持つ場合

チェックに向くハンド

  • 中程度の強さ(コールされると勝てないが捨てるのも惜しい)
  • エアボール(チェックすることで相手のベットを引き出せる)
  • → OOP では特に重要。Positional liability を避けるため

Allin に向くハンド

  • SPR が低くなり、ベット = ほぼ全スタックの状況
  • 強いセットや Strong Draw で即コミットしたい場合
  • → 30BB 以下で頻度が上昇。25BB 以下で構造的に増える

IP vs OOP でサイズ戦略が変わる理由

同じレンジ優位を持っていても、IP のプレイヤーは OOP より Large を使いやすい。IP は後のストリートでポットサイズをコントロールできる(ターンやリバーで適切にフォールドできる)が、OOP はそれができない。OOP で Large を打つとチェックレイズされたときのリスクが大きく、チェックも重要な戦略の一部になる。

スポット40BB Large%主な Large 使用ボード
lj_btn_cb(OOP CB)24%TJ9|Rain(57%)、King|Rain(47%)
lj_btn_stab(OOP Stab)14%Ace|2tone(36%)、Conn|2tone(32%)
btn_bb_cb(IP CB)19%Conn|2tone(40%)、Low|2tone(55%)
lj_bb_cb(IP CB)30%TJ9|Rain(67%)、TJ9|2tone(61%)
IP vs OOP の本質的な違い
LJ-BTN(OOP CB)と LJ-BB(IP CB)を比較すると、全体 CB 頻度は LJ-BB が 87% で圧倒的に高い。これはポジションの差が直接反映されている。IP では BB のウィークなレンジを全方位から攻撃できるが、OOP では相手の強いコールドコールレンジ(BTN)に対してより慎重に選択する必要がある。

Small / Large の使われ方:Mixed か Single か

理論上は「ボードによって Small か Large を選ぶ」と説明されるが、実際には 多くのボードで両サイズが同時に使われる(Mixed strategy)。GTO はハンドを複数のサイズに分散させることで相手を無差別(indifferent)にする。

CB 合計頻度が 10% 以上のボード(チェック支配ボードを除外)に限定し、Small と Large が双方 5% 以上使われるボード数を集計(even_40):

スポット 集計対象
(CB≥10%)
Mixed
(両方 ≥5%)
Small 主体
(Large <5%)
Large 主体
(Small <5%)
BTN-SB CB(OOP) 138 1072110
LJ-BTN CB(OOP) 137 1081811
LJ-BB CB(IP) 138 88482
BTN-BB CB(IP) 138 80580

LJ-BTN CB のみ 1ボード(CB <10%)を除外。他3スポットは全138ボードが CB 10%以上。

このデータから2つのパターンが浮かぶ:

実戦での意味
「このボードは Small か Large か?」という二択の思考は OOP スポットでは不適切なことが多い。OOP では「Small と Large を何割ずつ使うか」という比率の問題として考える。IP では「ほとんどのボードで Small がデフォルト、特定のボードカテゴリで Large を追加」という方が実態に近い。

5Effective Stack(ES)がサイズ体系を変える

スタック深度(ES)は、ベットサイズの「体系」そのものを変える変数だ。単にサイズ比率が変わるのではなく、利用可能なサイズの種類と組み合わせが構造的に変化する

3つのサイズ体系レジーム

レジーム A:40〜30BB — Small + Large の 2サイズ体系
Small ≈ 25%pot(Bet 1.1〜1.3BB) Large ≈ 70〜85%pot(Bet 3.4〜4.4BB)
SPR が 3〜7 の深さがあり、マルチストリートのサイズ戦略が機能する。Small と Large の2サイズが中心で、ボードとハンドによってどちらを使うか(あるいは両方を混合するか)が変わる。Allin は GTO Wizard 上では技術的に選択肢として存在するが、40BB での実使用頻度は全 SRP スポット平均 0.01%、30BB でも平均 0.01〜0.08%(特定スポット・ボードで最大 4〜12%)と、レジーム全体を通じて実質使われない。

CB 頻度:SRP 4スポット平均 73% で 40BB / 35BB / 30BB はほぼ横ばい(±3pp 以内)。スポット間の幅は大きい(IP の BTN-BB・LJ-BB は 84〜87%、OOP の LJ-BTN は 59% 前後)が、40→35→30 の深度変化による変動は小さい。30BB は CB 頻度の観点ではレジーム A そのものだが、内部では Large 頻度がこのレジーム中のピーク(例:lj_btn_cb Large 24%→30%→33%)になる。
レジーム B:25BB — Mid 単一体系(Small 消滅)
Mid ≈ 55〜65%pot(Bet 3.1〜3.3BB)
Small(25%pot)が消える。SPR が約 4 に低下し、フロップで Small → ターンで Large → リバーで Allin というマルチストリート設計が成立しなくなる。利用可能なベットは Mid サイズ1種のみとなる。Allin はシステム上は存在するが SRP での実使用頻度は平均 0.07〜0.47%、特定ボードで最大 5〜9% 程度にとどまり、実態上は Mid 単一体系。

CB 頻度:SRP 平均 54%(レジーム A から −20pp 前後の急落)。全スポットが一様に下落し、30BB との差は OOP で 12〜16pp、IP で 25〜29pp に達する。Mid は BB / SB がコールしやすく fold equity が低下するためチェックが増える。IP vs Blind(BTN-BB, LJ-BB)で下落が最大(btn_bb_cb: 84% → 59%、lj_bb_cb: 87% → 65%)。

例外:3BP スポットは SPR が元々低く(40BB でも ≈2.5)、25BB でも構造は Bet + Allin のまま CB が増加し続ける。
レジーム C:20BB — Mid + Allin の 2サイズ体系(Allin 復活)
Mid ≈ 50〜55%pot(Bet 2.7〜2.8BB) Allin(18BB)
25BB からスタックがさらに短くなると Allin の使用頻度が有意に拡大する。SRP 全スポットで平均 0.5〜1.5%、特定ボードでは最大 15〜35% に達する(例: LJ-BTN CB の一部ボードで Allin max 34.9%)。Mid だけでなく Allin も戦略の構成要素となる本当の2サイズ体系。Mid 自体のサイズも 25BB(≈60%pot)から 20BB(≈55%pot)へとわずかに縮小する。

CB 頻度:SRP 平均 52%(25BB から +3pp の小幅回復)。Allin が追加されて戦略の幅が若干戻ることが主因。ただし依然としてレジーム A(67〜69%)には程遠く、「25BB の急落から少し戻した」程度。スポット別では lj_btn_cb 46%→49%、lj_bb_cb 63%→66% と回復幅は一様に小さい。

サイズ体系の推移まとめ

スポット種別 40BB35BB30BB25BB20BB
SRP IP(BTN-BB, LJ-BB) S + LS + LS + L Mid Mid + Allin
SRP OOP(LJ-BTN, BTN-SB) S + LS + LS + L Mid Mid + Allin
3BP(SB-LJ, LJ-BTN) Bet + AllinBet + AllinBet + Allin Bet + Allin Bet + Allin
BB Donk / SB Donk S + LS + LS + L Mid Mid + Allin

レジーム A S = Small(≈25%pot)、L = Large(≈70〜85%pot)  レジーム B Mid = ≈55〜65%pot(Allin 平均 <0.5%)  レジーム C Mid = ≈50〜55%pot、Allin avg 0.5〜1.5%・特定ボードで最大 35%

なぜ 25BB が転換点になるか
オープン 2.5BB → コール → フロップのポット ≈ 5.5BB、残りスタック ≈ 22.5BB(even_25)。SPR = 22.5 / 5.5 ≈ 4.1。しかし実際のサイズ体系は 25BB から突然変わる。これは GTO Wizard がベットサイズを「ポット全体への影響」でモデル化しており、Small(25%pot = ≈1.4BB)ベット後のターンでさらに Small を打つと、リバーのオールインへの道がなくなるためだ。「後の3ストリートを見越したサイズ設計」ができなくなる点が 25BB 以下の臨界を生む。

6理論まとめ — 実戦思考フロー

以上の理論を統合すると、フロップアクションの判断は次の順序で行われる:

  1. レンジ動態を確認 — IP か OOP か。コーラーは Blind か Cold-call か。自分のレンジ優位はどの程度か。
  2. ボードテクスチャを評価 — コーラーをどの程度助けるか(ペア・フラドロ・ストレートドローの3経路)。
  3. ES 深度でサイズ体系を確認 — 30BB 以上なら Small + Large の 2サイズ体系、25BB 以下なら Small が消えて Mid(+Allin)に移行。体系が決まると「選べるサイズ」が変わる。
  4. 自分のハンドをカテゴライズ — 強いが脆弱 → Large。安価な fold equity → Small。中程度 / エアボール → Check or Small。
  5. CB / Donk / Stab を決定 — アグレッサー = CB。OOP 非アグレッサーは原則チェック(Donk は例外的条件のみ)。IP のスタブは OOP がチェックスルー後。

シリーズの構成

この基礎理論の上に、次の各レポートが積み上がる:

ES深度別スポット横断サマリー(本シリーズ次号)→ 全14スポットを5つの ES 深度で横断比較
LJ-BTN SRP CB/Stab 戦略(予定)→ OOP CB のベースライン詳細分析
LJ-BB SRP CB/Donk 戦略(予定)→ IP CB のベースライン詳細分析


データ:GTO Wizard(MTTGeneral_ICM9m200PTPCT50)全14スポット / ES 40・35・30・25・20BB / 各138ボード。
スクレイパー PR #23 修正版使用(マルチサイズ完全捕捉済み)。2026年5月取得。